現場の困りごとから生まれた添木と竹の結束クランプ

 木を植えても、根が張るまでには3年ほどかかります。その間に台風が来れば根ごと倒れかねません。そこで造園の現場では、植えた木の両側に杭を打ち、杭に横木を渡して鳥居のように組み、幹をその横木に縛って支えます。杭と横木が十字に交わる部分は太い針金(番線)で固定するため、1か所あたり10分近くかかります。
 株式会社協栄ファスナー工業が開発した「添木結束クランプ」は、この結束を電動ドライバー1本の作業に置き換え、従来の約4倍の速さで作業でき、誰が取り付けても同じ固定力が得られるようにしました。さらに同社は、その構造を応用して太さが一定でない竹どうしも固定できる「バンブークランプ」を開発。自動車部品で培った技術が、竹の利活用にも生かされはじめています。

会社紹介 株式会社協栄ファスナー工業
〒690-2701 島根県雲南市掛合町掛合2414
TEL(0854)62-9700 FAX(0854)62-9696
https://kyoei-fi.co.jp/


 およそ50年前、農業と林業が主な産業だった中国山地の山あいの町で、「安定した雇用の場をつくり、この地で生活の営みを続けれるようにする」という想いのもと、前身となる協栄金属工業が誕生。1996年、協栄金属工業のホースクランプ部門の製造を担う会社として発足し、2003年に現社名で完全独立した。マツダをはじめとする自動車向けのホースクランプを主力としながら、現場の困りごとに応えるアイデア商品の開発にも力を注ぐ。


インタビュー

代表取締役社長 松本 悠 氏

株式会社協栄ファスナー工業
Q1.「添木結束クランプ」は、どのような製品でしょうか
A.番線での結束作業を、電動ドライバー1本に置き換える製品です

 造園業者さんから「この結束が大変なんだ」と相談を受けたのが出発点でした。二本の杭に横木を渡して組む「二脚鳥居支柱」は、木が根を張るまでの3年間を支える大事なものですが、杭と横木が十字に交わる部分を番線で固定するのに手間がかかる。何かいい方法はないかと聞かれ、前社長がいろいろと考えた末、風呂場でふと形を思いついたのだと聞いています。
 当社はもともと番線の加工を得意としており、またホースを締めるバンドもつくっています。その二つを組み合わせたのが添木結束クランプです。電動ドライバー1本(通常のドライバーでも可)で締められるので、誰が取り付けても同じ固定力が得られます。実際に測ってみたところ、番線なら1か所10分ほどの作業が、2分半程度で終わりました。初めて使う方の数字ですから、慣れればもっと短くなるはずです。東京の青山一丁目駅や新橋駅の周辺など各地で使われており、出張先で偶然見つけて驚くこともありますね。


Q2.貴社の製品は竹の分野にも広がっていますが、どのような経緯だったのでしょうか
A.展示会でのご縁から、一つずつ相談に応えてきました

 きっかけは展示会でした。添木結束クランプを出していたとき、ある方が「これはいいですね」と声をかけてくださった。それから5年ほど経って、その方から「竹と竹を固定するものがほしい、この結束クランプをベースにつくれないか」とご相談をいただいた。そこから一緒に考えて生まれたのが「バンブークランプ」です。
 正直に言うと、竹の市場は超がつくほどニッチです。それでも「純国産メンマサミット」などの催しが毎年開かれ、全国から人が集まる。増えすぎた竹をどうするかという課題を抱えたコミュニティが、津々浦々にあるのです。表からは見えにくいけれど、需要は確かにあります。
 当社には、正直なところ得意分野とは言えない相談も持ち込まれます。それでも受けるのは、困っている方がいて、そこに当社として何ができるかを考えるところから、いつも動いているからです。社員から「本当に利益が出ているのですか」と心配されることもありますが、面白がってくれる者もいる。結婚式場向けのフラワーリースフレームをつくったときは、溶接を担当した社員が友人から「式場で見たけどすごかった!」と言われたそうで、その話を聞いたときは、やってよかったなと思いました。

株式会社協栄ファスナー工業


株式会社協栄ファスナー工業
Q3.今後の展望を教えていただけますか?
A.開発品を柱に育てながら、人が育つ会社にしたい

 開発品は時間がかかります。添木結束クランプは2000年の開発ですが、なかなか認知が進まず、年間1万個売るのがやっとでした。その後、訪問営業や展示会でのPR等地道に続け、長い年数をかけてようやく認知が進んできました。いまは年間3.5万個ほどまで伸びています。他の開発品では7次試作まで重ねて形になった案件もあります。開発とはそういうものだと分かったうえで、種をまき続けています。
 それでも開発品を伸ばしたいのは、ひとつには単純にワクワクするからです。どう作れば課題を解決できるかを考え、試作を重ねる——その試行錯誤の時間そのものが面白い。もうひとつは、売上確保の面でも外の波に強いからです。コロナ禍で会社全体の売上が落ち込んだ年に、添木結束クランプ単独では17%伸びました。真逆の動きをしたのです。気持ちの部分も含め非常に助かりました。
  もうひとつ、私が本当にやりたいのは人を育てることです。当社の経営理念は「ホースクランプメーカーとしてものづくりを通じ、人を育み、社会に貢献する」です。この「人を育み、社会に貢献する」が目的で、「ものづくり」はそのための手段です。そもそも当社は、当時農業と林業が主な産業だったこの土地に新たな産業の火(=雇用の場)を興すことを目指して祖父の世代がお金を出し合って出来た会社です。安定した雇用の場をつくり、この地で暮らし続けられるようにしたい——その想いが原点にあります。ものづくりは、生産はもちろんですが、客先から話をもらってくる「営業」からそれを形にする「技術」、受注が決まれば「生産計画」をたてて「部材調達」をし「社内製造」「外注加工(組付け)」を経て、「品質検査・梱包」、「出荷・運搬・納品」、お金のやり取りをする「総務経理」まで、いろいろな立場の人が関わって初めて成り立ちます。その一人ひとりにとってよい環境をつくれれば、育った分だけ会社もよくなっていく。まだまだ道半ばで、できていないこともたくさんありますが、そこに向かって続けていきたいと思っています。


製品情報

「添木結束クランプ」

 植栽工事の二脚鳥居支柱などで用いる、丸太と丸太を十字に固定するステンレス製クランプ。従来は番線による手作業が大半だった結束作業を、電動ドリルに装着したレンチ1本で行えるようにした。誰が取り付けても安定した固定力が得られ、施工時間を大幅に短縮できる。突起物がなく美観に優れ、横木や杭がやせた際の増し締めや取り外しも容易で、錆びにくい。

「バンブークランプ」

 太さが均一でない竹どうしを、簡単かつ強固に固定するための製品。竹にまつわる課題に取り組む温室効果ガス削減推進市民ネットワークと共同で、2023年11月に開発した。添木結束クランプをベースに、本体とリング部を脱着式へ改良。リングをかける位置とサイズを変えることで、径の異なる竹を自由に組み合わせられる。イベント用の構造物やブランコなど、竹の利活用の現場で用いられている。


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