風力発電を守る開発

 持続可能な社会の実現に向けて盛り上がりをみせるクリーンエネルギー。国際エネルギー機関(IEA)の発表では、2040年には再生可能エネルギーの40%の発電設備容量を風力発電が担うとされている。日本でも風力発電は年々増加しているが、雷の多いお国柄もあり落雷被害の修繕コストが高いことが悩みの種。対策のひとつが、雷を地中に逃すレセプターの装着である。
 同社が開発した高耐久の新素材レセプター「らいじん君©︎」を利用すれば、補修費用などの運用コストを大幅に減らせる可能性がある。導入実績が進めば、日本の風力発電の現状に変革を起こすかもしれない。
会社紹介 株式会社 守谷刃物研究所
〒692-0057 島根県安来市恵乃島町113-1
TEL:0854-23-1311
FAX:0854-23-1403
https://www.moriyacl.co.jp/

 日立製作所安来工場刃物研究所の専属協力工場として、前身となる守谷作業所を1953年に開業。刀匠だった創業者が保有する高い金属加工技術を今日まで引き継ぎ、付加価値を高める加工技術で事業を拡大している。現在は、特殊鋼(ヤスキハガネ)を使った精密機械加工や、サブミクロンレベルの精度が求められる自動車搭載用ベーン、積層モーターコアの試作から量産まで行う。

インタビュー

代表取締役社長 守谷吉弘 氏
加工品事業部 部長 春木和哉 氏

株式会社 守谷刃物研究所
株式会社 守谷刃物研究所
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Q1.「らいじん君®️」と「雷伝」は、どのような製品でしょうか
A.風力発電を守るための製品

 「らいじん君®️」と「雷伝」は、風力発電に用いられる風車を落雷から守るために開発しました。風車のブレードはFRPという素材でできていますが、雷が落ちると破損してしまいます。そうなると、損傷具合によっては1ヶ月以上稼働できなくなります。また風車は基本的には海外メーカーのものが使われていますので、部品を輸入しないといけなくなり、修繕コストが高価になります。もちろん、風車製造の海外メーカーも、雷を地中に逃す設備であるダウンコンダクタを搭載しているのですが、雷がダウンコンダクタを直撃してしまうと、損傷し使えなくなるため、安全に雷を流すための耐久性の高いレセプターが必要になります。従来のレセプターは、落雷を受けると留めてあるボルトが溶けて安全に通電出来なくなり、ブレードが破損してしまうことがありました。
 それを解消するのが当社開発のレセプターである「らいじん君®️」です。らいじん君®️には、島根県産業技術センターや松江工業高等専門学校と共同開発した新素材「STC」を使用しています。熱伝導率の高い素材のため、従来の素材と比べて溶損を低減することができます。
 また、どんなに耐久性の高いレセプターであっても、レセプターのみ取り付けられたブレードでは、雷がレセプターへ誘導されない問題が起こります。当社が共同開発した「雷伝」(ダイバータストリップ)によって、雷を上手くレセプターに誘導することが可能となりました。


Q2.どのような経緯でグリーンビジネスに参入されたのでしょうか
A.ご縁があり開発の機会をいただました

 当初は、島根県産業技術センターが開発した新素材「STC」を用いて、熱伝導率の高い特殊なチップを開発して欲しいというお話をいただきました。しかし、既製品でも十分対応できた為、STCは別のものに応用しようという話になりました。様々な関係者に相談していたところ、松江高専の先生から「耐久性が高く、熱伝導率も高いなら、風車のレセプターに使えるかもしれない」とご提案を頂き、開発を始めました。以前より当社では、EV自動車等に使われる積層モーターコアを試作していたので、脱炭素や新エネルギーに係る製品は作っていましたし、レセプターの開発も手が付けやすかったのですね。
 「らいじん君」「雷伝」も含め、どれも狙って開発したというよりは、様々なご縁を大切にしてきた結果、グリーンビジネス領域においても当社の技術が必要とされたのだと思います。当社のルーツが創業者であり祖父の「刀鍛冶」ということもあり、金属の切削加工や焼き入れ加工、研磨加工は得意分野です。今後も自分達の強みを活かして、このようなご縁が増えれば嬉しいです。

株式会社 守谷刃物研究所


株式会社 守谷刃物研究所
Q3.今後の展望を教えていただけますか?
A.まずは実績を積み重ねることが大切だと考えています

 2014年にこの製品を開発し、すぐに落雷多発地域である日本海沿岸に設置された風車で採用されたのですが、採用実績がまだまだ少ないのが課題です。もちろん、事業者様も当社製品に高い関心を寄せて戴けるのですが、風車メーカー保証等の関係で導入に二の足を踏まれる方が多いのです。風車にも保証期間というものがあり、その間に発生した故障などは保証が効きますが、正規品ではない部品が取り付けられると保証が受けられないことになるため、保証期間の過ぎた風車にしか施工できないのが実態です。
 一方、取り付けた風車ではきちんと成果が出ており、最初に取り付けた日本海沿岸の風車では、それまでは毎年補修が必要だったものが、取付け後は大きな破損が減り、レセプターの交換もせずに今日に至っています。ブレードの交換となると数百万円規模の費用が掛かると想定していますが、当社の製品を取り付けた場合、このコストを大幅に低減できると考えています。この効果を少しでも多くの事業者様に体感していただきたく、少しずつ実績を増やしていければ嬉しいです。


製品情報

らいじん君®︎(レセプター)

 風力発電ブレードのメンテナンス費用低減に寄与する高耐久受雷ユニット。風力発電事業において、落雷による風車の損傷は、風車の事故原因の20%近くを占めており、風力発電の事業性を損なう大きな要因の一つに挙げられています。風車の受雷部であるレセプターに高熱伝導材料を採用することで受雷部の熱を拡散し、レセプター溶損のリスクを低減し、風車の故障低減、稼働率向上につなげます。

雷伝(ダイバータストリップ)

 不正着雷をレセプタに誘導し、ダウンコンダクターへの直撃を低減する。従来品に比べ耐久性も高く複数回の被雷に耐え、メンテナンスの軽減を期待できます。風車だけでなく、ビルの側面や通信設備などの雷対策にも水平展開できる可能性があります。


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