ものづくり日本大賞も受賞したライフサイクルコストを下げる開発

 工場排水や畜産施設から発生する汚泥の処理、産業排水処理等のし渣除去・汚泥濃縮で用いる従来の設備は多くの水を使用し、設置のために広いスペースが必要だった。株式会社研電社が開発した「スリットセーバー」は、これらの課題を解決し、様々な顕彰も受けている製品である。エコで機能的なものづくりの裏側の話を聞いた。
会社紹介 株式会社 研電社
〒693-0043 島根県出雲市長浜町1372-15
TEL:0853-28-1818
FAX:0853-28-2858
https://www.kendensha.co.jp/

 1958年に現社長の祖父が、車のバッテリーやライトなどの電装関連の整備工場を創業。顧客の課題解決に真摯に向き合ううちに、事業内容も次第に変化していく。遠心分離機のメンテナンスを始めたことがきっかけで、排水処理分野へ参入していく。

インタビュー

代表取締役社長 石飛 龍一 氏
製造部 製造第2課 課長 大田 賢二 氏

株式会社研電社
Q1.グリーンビジネスを始めたきっかけ
A.祖父が装置を開発し、親子で高度化を実現

 「スリットセーバー」の開発は、初代社長だった祖父から始まり、およそ2000年に、祖父が 「洗浄水を使わない円盤型の固液分離装置」を製作しました。画期的な製品でしたが、濾過面の目詰まり解消が課題でした。時は流れ、2005年に2代目の社長となった父が、楕円型の固液分離装置を開発し課題を解決しました。これにより、目詰まりを防止することで、し渣除去・汚泥濃縮・脱水が可能になりました。私が3代目となった今、現行モデルはいわば第四世代機であり、圧搾力を強化、脱水を追求したモデルになります。
 このモデルの開発に至る前に、低コスト化と高機能化を実現した第三世代の開発がありました。開発した経緯は、まだ父が社長の時、リーマンショックにより収益が減少しました。このままでは廃業せざるを得ず、何とかして利益を確保する必要がありました。そこで私は、導入現場に足を運び、製品を1から見直しました。調査の結果、スリットセーバーの濾過面を全て使い切らずとも、濾過面前段の方で固液が問題なく分離できていました。そこに着目し、濾過幅を広げて距離の短い製品を開発すれば、機能は同等でコストが削減できると考えました。この開発で、部品の単価は増加しましたが、部品点数が大幅に削減でき、仕入れコストが低減しました。従って、コスト低減により、市場優位性が生まれ、利益が確保できるようになりました。


Q2.苦労したことなど
A.技術者目線と経営者目線の両輪で、会社を立て直す

 環境へ配慮した製品を開発し、改良を続けて、よりエコで高機能なものを作り続けていられるのは、私が技術者でありつつ、経営者思想を持つからだと思います。私の社長就任当初、会社は赤字でした。それまでの原価計算は、どんぶり勘定であったことや、繁忙期に抱えざるをえない過剰在庫の問題もありました。良い製品を作るには、エンジニアリングチェーンはもちろん、経営方針まで見直す必要がありました。例えば、決算時期は繁忙期を避けるように移動、在庫発注点を見直すなど、社長就任後はそのようなことから始めました。
 持続可能な社会に向けて環境に配慮するのは当然ですが、それで企業が存続できなければ持続的とは言えません。やはり、従業員を抱える以上は収益の確保が最重要課題です。就任当時は代理店に任せきりだった営業活動は、現在取締役専務を筆頭とし、社内一丸となり取り組むようになり経営が回復傾向に転じました。しかしながら、世の中は成長を続けます。同じ製品を販売し続けるということは時代遅れになると考え、第四世代のスリットセーバーの開発に取りかかりました。「性能の高い製品を作る」という技術者目線と同時に「利益を出すためにコストを下げられないか」という経営者目線で開発をしたことで、結果的にエコな製品の開発に繋がりました。
 例えば、通常のステンレスより強硬度材である二相系ステンレスに代替したことで、材料の薄肉化と製作工数を減らすことができました。しかしながら、薄肉材料の溶接は熟練技術を伴うため、大田課長と共同で生産方法をさらに改善しました。性能・品質は高く維持しつつ、作業者負担を上げずコストを下げる工夫が、グリーンビジネスと言われる社会には必要なものかもしれません。

株式会社研電社


株式会社研電社
Q3.今後の展望を教えていただけますか?
A.サプライチェーン全体の脱炭素化に貢献するグリーンビジネスを目指す

 カーボンニュートラルに貢献する事業は、今後も増えていくと思います。それが今後、利益の確保に繋がるとも考えます。環境に良い機械・製品を作る会社は、その製造工程でも環境への配慮が重要です。例えば、ユーザ出荷後の製品自体は洗浄水の低減・省スペース化等で、省エネを実現できていても、出荷前の製造工程で大量の水や電力を消費していたら、製造コストの増加に加え、CO2の排出量も増加します。それではエコ製品とは言えなくなる。第四世代機は、作業工数を減らすことで電力消費を抑え、使用する部材を減らしサプライチェーン全体の脱炭素化に貢献したいと考えます。従って、本当の意味でグリーンビジネスを成立させるためには、ユーザの観点での環境問題への配慮、製造の観点での環境配慮、その双方を同時に解決することが、研電社の進むべき方向性ではないかと考えます。


製品情報

スリットセーバー

 固液分離装置とは、一般的に工場排水処理・畜産施設汚泥処理、そして産業排水処理等のし渣除去・汚泥濃縮で用いる設備である。従来装置は濾過部が目詰まりしやすく、処理能力を維持する為には定期的に逆洗浄水を用いて目詰まりを解消する必要がある。この問題を解決する為に開発したのがスリットセーバー。独自のセルフクリーニング機能により逆洗浄が不要であり、低LCC(ライフサイクルコスト)、導入コスト軽減、省スペース化に成功した。また、スリットセーバーは「汚泥脱水機」としても使用可能。独自の圧搾方法で汚泥の含水率を下げることにより、排出汚泥量を削減する。また、排出ケーキは堆肥、セメントの原料としてリサイクルされる事例もあり、3R( Reduce・Reuse・Recycle)に貢献する。


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