当日の様子
話題提供「サステナブル素材・製品の動向と島根県の可能性」
株式会社エンビプロ・ホールディングス 経営企画部長
柴田 京平 様
サスティナブル製品・素材は、CO2排出量の約半分を占める「製造」のカーボンニュートラルに貢献する
「サステナブル素材」は環境や社会課題に対応した素材を指し、天然素材やリサイクル素材、アニマルフリー素材などが含まれる。サステナブルな商品は単に環境に優しいだけでなく、生産から廃棄までを通じて環境や経済に配慮している。この概念は環境や経済だけでなく、ESG、人権、多様性にも適用されるものだ。
環境のメガトレンドは「カーボンニュートラル」だ。パリ協定で定められた目標に向けて世界が動いている。CO2排出は55%がエネルギー関連由来、残りが製品の製造由来と言われており、それぞれ、再エネとサーキュラーエコノミーが解決の鍵だ。サーキュラーエコノミーの市場は拡大しており、将来的には120兆円市場に成長すると言われている。
サーキュラーエコノミーとは、捨てる経済から使い続ける経済への転換を指し、廃棄物という概念が存在しない。「バタフライダイアグラム(サーキュラーエコノミー実現の概念を蝶の羽に見立てた図)」では、資源を再生可能資源と枯渇性資源に分けて、資源ごとの循環について示している。枯渇性資源においては、小規模な循環(シェアリングやリペア)から取り組むことが重要とされている。
サスティナブル製品・素材による「製造」へ向けて世界が舵を切っている
サーキュラーエコノミーが国内で注目されるようになったのは、2020年の「循環経済ビジョン」からであり、「3R」等の環境問題の意識から、経済面の問題として捉えなおされた経緯がある。今後、環境省や経産省では、再生材利用率規制や循環型配慮設計の拡充などが進む見通しであり、企業は循環型ビジネスへの転換とともに情報公開が求められるようになる。
プラスチック関連の法律は1995年から段階的に導入され、2019年には、2030年までのバイオプラスチックの導入目標が掲げられた。EUでは2015年からサーキュラーエコノミーを実現する政策が進められ、国際基準やデジタル製品パスポート等の標準化戦略が先進している。
EUの方針は、市場にサーキュラーエコノミーに対応した規制を設けることだ。例えば、2030年までに新車のプラスチック25%を再エネにより製造されたものにすること、さらにその25%を廃車由来にすることを求めている。バッテリー製造においては、再生されたレアメタルの使用が必須となる。国内メーカーもトヨタやホンダ、マイクロソフトなどがサーキュラーエコノミーに対応した目標を掲げている。
なお、サーキュラーエコノミーのビジネスモデルは、資源の再利用・再資源化、資源の生成、資源の共有、資源の長期利用の4つに分類されている。
サスティナブル製品・素材のビジネス化にはサプライチェーン全体の俯瞰とパートナーシップが必要だ
当社の事例として、リチウムイオンバッテリーの再生事業が紹介する。この事業では、廃棄されたバッテリーや廃液を破砕処理し、ニッケルやコバルトを含む材料に再生する。中国において電気自動車の普及に伴い電池の需要が高まり、電池廃材の市場が急成長していることが背景にある。
事業の成功要因として、電池リサイクル全体を理解し、グローバルな視点から産業の未来を予測して、参入可能かつ重要な工程を見出したことが挙げられる。当初は数年にわたり赤字が続いたが、参入ポイントが適切であったために、後に回復できた。
再生ゴム製品の製造では、メーカーである日東化工をグループ化し、リサイクル製品の製造を可能にした。現在はタイヤtoタイヤ(廃タイヤからタイヤを再製造する試み)を目指している。
その他、耐熱性のあるバイオマスプラスチックの開発や、自動車産業における工程端材の再利用など、さまざまな事業に挑戦している。
これらの事業のキーポイントは、サプライチェーン各社との十分なコミュニケーションである。
失敗事例として、自動車の破砕残渣を再生プラにする試みにかつて取り組んだが、メーカー要求基準に達成できなかった。これには、サプライチェーンの基盤が貧弱であったなど様々な要因があったものの、最大の原因はコミュニケーション不足により、そうした要因を事業開始前に見極められなかったことであった。
自身の強みを再認識し、社会的ニーズをとらえた取組が求められている。
カネカ株式会社では、バイオマスポリマーの生産量を増大させる計画で、自社の需要も踏まえ、ビジネス性の期待できるものになっている。TBM株式会社は、脱プラ素材「LIMEX」の開発製造販売を手がけ、国際市場にも視野を広げている。
広島県では、自治体と自動車産業が協力するプラットフォームを整備し、サーキュラーエコノミーの実現に向けたロードマップを策定している。静岡県では、セルロースナノファイバーの活用推進事業を実施しており、製紙会社各社がセルロースナノファイバーを活用したエシカル素材を開発し、欧州に販売している。これらは、地域連携やコミュニケーションが事業推進の鍵となっている先進事例だ。
サーキュラーエコノミーの世界では、社会的ニーズを捉え、自社の強みを活かしたビジネス構想が重要である。課題としては、商品の販売先や妥当な価格の確立などが挙げられ、これらに対処するためには他者との連携が必要だ。また、事業を推進する人材、コーディネートする人材、経営人材など、事業を推進する人材の確保も重要だ。
以上のためには、待ちの姿勢ではなく、自社の強みの発信や自治体の協力が必要である。
現在訪れている変化は非常に大きなレベルのものであり、これに適応することが求められている。
質疑応答
Q.
タイヤに関する装置を扱っている。リサイクルに興味があるが、タイヤのサステナブル市場について、PCタイヤやTPタイヤなどの各種タイヤごとの傾向などはあるのか。また、リサイクルの動向は。
A.
- PCタイヤ、普通車のタイヤは混成物が多くリサイクルしにくい。バス用のTPタイヤなどは純度が高く、次にはリトルタイヤなどがリサイクルに適している。
- リサイクルの動向について、タイヤ業界は成熟しており、衰退局面にある。その中で、当社が連携するタイヤメーカーは、CEに取り組むことで成長企業に変わったという実感がある。そういった機会を捉えるのは重要だと考えている。