話題提供「サーキュラーエコノミーが地域の新たな経済システムを拓く
-資源循環ビジネスの動向と島根県の可能性-」
一般社団法人サステナブル経営推進機構 専務理事
壁谷 武久 様
将来世代により良い環境を引き継ぐ意識がグリーンビジネスの基盤である
近年、サーキュラーエコノミーという概念が広く知られるようになってきた。
私は、経産省官僚を経て公害問題を扱う(一社)産業環境管理協会や、(一社)サステナブル経営推進機構に所属し、製品のライフサイクル全体における環境負荷を測定するLCA(Life Cycle Assessment)事業に取り組んできた。近年(株)LCAエキスパートセンターを設立し、LCA人材の育成も手掛けている所である。
トヨタ自動車では、ティア1~6までの企業と共に、環境に負担をかけない製品を追求している。EVとガソリン車のどちらがエコか、という論争があるが、LCAの観点から見れば必ずしもEVが環境負荷が小さいとはいえず、製品の生産から廃棄に至るまでのトータルで環境負荷を低減することが目指されている。
カーボンニュートラルを含むグリーンビジネスの考え方の基盤は、子孫によりより環境を継承することと考えている。プラネタリーバウンダリー(地球の限界)の経年変化を見れば、環境と経済の関係において、不可逆的な事態が進行していることが示されている。将来から逆算したバックキャストの考え方で、現在の事業を見直していくことが大切だ。
サーキュラーエコノミーは欧州の仕掛ける経済戦略だ
サーキュラーエコノミーは「ゴミ対策」とは異なり、自然から得た資源を無駄なく使い続けるビジネスモデルを意味している。この概念は欧州で発展してきたものだが、その本質は環境保全ではなく、経済戦略であるということを強調したい。
90年代のインターネット登場以降、世界の変化についていけず、ビジネス資源が乏しくなりつつあった欧州では、アメリカや日本に対抗するための経済戦略を必要としており、そのコンセプトとして地球環境に着目したのである。
欧州委員会(ヨーロッパを中心に27か国が加盟する政治経済同盟)では「持続可能な経済」(2000年)や「資源効率政策」(2011年)を早くから採用し、これが2015年のSDGsやパリ協定を経て、世界をリードする潮流となっている。
ドイツでは、GDP上昇と環境負荷の切り離し(デカップリング)を実現している。その鍵となるのは、製品の長寿命化や資源の持続的な利用等、サーキュラーエコノミーを基盤とするイノベーションである。
2019年の欧州議会では環境政党が躍進し、欧州の社会的・政治的アクションの表れとなった。このような状況は日本では起こっておらず、グリーンに関する関心は政府の呼びかけに依存しているのが現状である。
グローバル市場の攻略にサーキュラーエコノミーが必須となる
欧州はサーキュラーエコノミーを基盤とし、これまでのアメリカや日本の経済的覇権に対抗している。欧州の政策はサーキュラーエコノミーを中心に据えて体系的な政策構造を整えており、これを世界のルールとして標準化する戦略を展開している。
一例として、カーボンニュートラルの実現に社会全体で取り組む施策が挙げられる。これには再生プラスチックの使用(新車においては25%以上の使用等)や、EV電池製品におけるCO2排出量の申告の義務化などがあり、欧州市場ではこれらへの対応が充分でなければ、今後取引が制限される。
欧州市場の影響力は特にアメリカやアフリカに対して強く、環境関連市場を主導することが可能となっている。これに対応するためには資源循環型社会の構築が不可欠であり、我が国の大企業も鋭意取組を進めているところだ。
サーキュラーエコノミーに基づく市場を生み出す努力が必要だ
再生プラの使用義務化への対応施策としては、木材をカーボンニュートラルファイバーに転換し、鉄やプラスチックに代わる素材を導入する研究が進められている。
その他、国内でも様々な分野で環境負荷の低い製品や取組が生まれている。
- トヨタ紡織では、マテリアルリサイクルを重要視し、再生可能資源の供給に積極的に投資している。
- 業務用油脂製品「長徳®」は長寿命の油で、何度も使用できる。
- LIXILではアルミの100%リサイクルに取り組んでいる。
- 愛知県蒲郡市では、消費者へサーキュラーエコノミー製品の使用を呼び掛けている。市民の生活すべての領域において環境を意識し、市のすべての関係者におけるウェルビーイングを目指している。
- SuMPOでは、再生プラを認証するSPC(Sustainable Plastics Certification)認証に取り組んでいる。SPC認証を得たプラスチックの利用により、製品に競争力が付加されるようになる。
グリーンビジネスの推進においては、これまでの取引先に留まらず、市場全体を見渡す視点が重要だと言えるだろう。サーキュラーエコノミーの推進においては市場の創造が不可欠で、供給者の論理ではなく、需要者の視点からの商品開発が必要である。
新たな取組には新たなパートナーシップの構築が必要である。本フォーラムなどを通じた連携強化はその具体策であろう。
廃棄物やゴミの概念を捨て、資源を循環させるための工夫や知恵の創出を、本フォーラムやご参加の皆様に期待している。
質疑応答
Q.
リサイクル事業に取り組もうとしている製品があるが、どうしてもロスの生じた分新品を購入する必要がある。これに当たり、購入先がリサイクル分の売上が減じるために、事業への協力を拒まれてしまう。打開策は無いか。
A.
- 購入先のスタンスは今日の時代にそぐわないものと言わざるを得ない。公の場でその問題を取り上げ、社会に問うてみてはどうか。その上で、リサイクル事業の成立に向けて、価格や品質、購入量等の課題に向けて、同業者など協力可能なプレイヤーの発掘・巻き込みをしながら、共に取り組むことで事業を進められたい。
Q.
再生プラのペレットを製造しているグループ会社があり、SPC認証に関心がある。今後の展開を教えて欲しい。
A.
- SPC認証に関して、政府機関や業界団体の遍く後押しを頂戴している。トヨタ自動車には当初からの応援を頂いている。今後認証制度が順風でスタートできるものと感触を得ており、引き続き情報をチェックいただきたい。
Q.
環境によい取組を実施していることについて、情報発信はどのようにすべきか。また、環境や地域貢献への取組を評価するインパクト投資というものがあるが、これに取り組むにあたってアドバイスが欲しい。
A.
- 現在、都市部では環境展などの展示会、コンベンションの取組が盛会である。そういった場を利用し、バイヤーに向けて訴えることが効果的だ。首都圏の他、関西でも活気が出てきている。
- インパクト投資、ESC投資に関しては、投資家とのマッチングや、投資を受けるための情報公開に係る有価証券報告書の記載など、我々のようなコンサルが大いにお手伝いできるところだ。
- 今後自動車業界がカーボンニュートラルやカーボンフットプリントに本腰を入れると、中小企業は一気に対応を迫られる。個社による対応はハードルが高いかもしれず、本フォーラムのような集団において備えを考えることも有効だろう。