「島根グリーンビジネスフォーラム(以下、「フォーラム」と記載)」では、広範にわたるグリーンビジネス全体を俯瞰し、県内製造業の関心の高い領域にフォーカスして、専門的な知見を有する先駆者からの最新情報を提供する「プログラム」を企画しています。
 本号では、12月13日(水)に実施しました、「脱炭素化の流れをチャンスに変えるサステナブル素材・製品ビジネスセミナー」をレポートします。
 世界的な目標であるカーボンニュートラルの実現に向けて、将来120兆円の市場が生まれるともいわれる「サーキュラーエコノミー」の考え方と、「サステナブル製品」の関係を紐解きながら、ビジネスのヒントをご提供します。

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当日の様子

サスティナブル製品・素材は、CO2排出量の約半分を占める「製造」のカーボンニュートラルに貢献する
 「サステナブル素材」は環境や社会課題に対応した素材を指し、天然素材やリサイクル素材、アニマルフリー素材などが含まれる。サステナブルな商品は単に環境に優しいだけでなく、生産から廃棄までを通じて環境や経済に配慮している。この概念は環境や経済だけでなく、ESG、人権、多様性にも適用されるものだ。
 環境のメガトレンドは「カーボンニュートラル」だ。パリ協定で定められた目標に向けて世界が動いている。CO2排出は55%がエネルギー関連由来、残りが製品の製造由来と言われており、それぞれ、再エネとサーキュラーエコノミーが解決の鍵だ。サーキュラーエコノミーの市場は拡大しており、将来的には120兆円市場に成長すると言われている。
 サーキュラーエコノミーとは、捨てる経済から使い続ける経済への転換を指し、廃棄物という概念が存在しない。「バタフライダイアグラム(サーキュラーエコノミー実現の概念を蝶の羽に見立てた図)」では、資源を再生可能資源と枯渇性資源に分けて、資源ごとの循環について示している。枯渇性資源においては、小規模な循環(シェアリングやリペア)から取り組むことが重要とされている。

サスティナブル製品・素材による「製造」へ向けて世界が舵を切っている
 サーキュラーエコノミーが国内で注目されるようになったのは、2020年の「循環経済ビジョン」からであり、「3R」等の環境問題の意識から、経済面の問題として捉えなおされた経緯がある。今後、環境省や経産省では、再生材利用率規制や循環型配慮設計の拡充などが進む見通しであり、企業は循環型ビジネスへの転換とともに情報公開が求められるようになる。
 プラスチック関連の法律は1995年から段階的に導入され、2019年には、2030年までのバイオプラスチックの導入目標が掲げられた。EUでは2015年からサーキュラーエコノミーを実現する政策が進められ、国際基準やデジタル製品パスポート等の標準化戦略が先進している。
 EUの方針は、市場にサーキュラーエコノミーに対応した規制を設けることだ。例えば、2030年までに新車のプラスチック25%を再エネにより製造されたものにすること、さらにその25%を廃車由来にすることを求めている。バッテリー製造においては、再生されたレアメタルの使用が必須となる。国内メーカーもトヨタやホンダ、マイクロソフトなどがサーキュラーエコノミーに対応した目標を掲げている。
 なお、サーキュラーエコノミーのビジネスモデルは、資源の再利用・再資源化、資源の生成、資源の共有、資源の長期利用の4つに分類されている。

サスティナブル製品・素材のビジネス化にはサプライチェーン全体の俯瞰とパートナーシップが必要だ
 当社の事例として、リチウムイオンバッテリーの再生事業が紹介する。この事業では、廃棄されたバッテリーや廃液を破砕処理し、ニッケルやコバルトを含む材料に再生する。中国において電気自動車の普及に伴い電池の需要が高まり、電池廃材の市場が急成長していることが背景にある。
 事業の成功要因として、電池リサイクル全体を理解し、グローバルな視点から産業の未来を予測して、参入可能かつ重要な工程を見出したことが挙げられる。当初は数年にわたり赤字が続いたが、参入ポイントが適切であったために、後に回復できた。
 再生ゴム製品の製造では、メーカーである日東化工をグループ化し、リサイクル製品の製造を可能にした。現在はタイヤtoタイヤ(廃タイヤからタイヤを再製造する試み)を目指している。
 その他、耐熱性のあるバイオマスプラスチックの開発や、自動車産業における工程端材の再利用など、さまざまな事業に挑戦している。
 これらの事業のキーポイントは、サプライチェーン各社との十分なコミュニケーションである。
 失敗事例として、自動車の破砕残渣を再生プラにする試みにかつて取り組んだが、メーカー要求基準に達成できなかった。これには、サプライチェーンの基盤が貧弱であったなど様々な要因があったものの、最大の原因はコミュニケーション不足により、そうした要因を事業開始前に見極められなかったことであった。

自身の強みを再認識し、社会的ニーズをとらえた取組が求められている。
 カネカ株式会社では、バイオマスポリマーの生産量を増大させる計画で、自社の需要も踏まえ、ビジネス性の期待できるものになっている。TBM株式会社は、脱プラ素材「LIMEX」の開発製造販売を手がけ、国際市場にも視野を広げている。
 広島県では、自治体と自動車産業が協力するプラットフォームを整備し、サーキュラーエコノミーの実現に向けたロードマップを策定している。静岡県では、セルロースナノファイバーの活用推進事業を実施しており、製紙会社各社がセルロースナノファイバーを活用したエシカル素材を開発し、欧州に販売している。これらは、地域連携やコミュニケーションが事業推進の鍵となっている先進事例だ。
 サーキュラーエコノミーの世界では、社会的ニーズを捉え、自社の強みを活かしたビジネス構想が重要である。課題としては、商品の販売先や妥当な価格の確立などが挙げられ、これらに対処するためには他者との連携が必要だ。また、事業を推進する人材、コーディネートする人材、経営人材など、事業を推進する人材の確保も重要だ。
 以上のためには、待ちの姿勢ではなく、自社の強みの発信や自治体の協力が必要である。
 現在訪れている変化は非常に大きなレベルのものであり、これに適応することが求められている。

質疑応答
Q.

タイヤに関する装置を扱っている。リサイクルに興味があるが、タイヤのサステナブル市場について、PCタイヤやTPタイヤなどの各種タイヤごとの傾向などはあるのか。また、リサイクルの動向は。

A.
  • PCタイヤ、普通車のタイヤは混成物が多くリサイクルしにくい。バス用のTPタイヤなどは純度が高く、次にはリトルタイヤなどがリサイクルに適している。
  • リサイクルの動向について、タイヤ業界は成熟しており、衰退局面にある。その中で、当社が連携するタイヤメーカーは、CEに取り組むことで成長企業に変わったという実感がある。そういった機会を捉えるのは重要だと考えている。

株式会社藤井基礎設計事務所(地域戦略研究所/係長 安井 裕彦 様)
 「隠岐の島のエコアイランド化」を目指している。島の人口は1.3万人であり、森林資源が豊富で森林の割合は86%と高い。島の歴史的な背景から林業が盛んであり、国の援助を受けて林業が主要な産業となっているが、人口減少が進んでおり、高校卒業後の仕事の不足が地元に戻るハードルとなっている。
 この状況に対応するため、隠岐の島町の定住推進セクションと協力し、森林資源を活用した新事業創出の取組を始めた。平成23年には「緑のコンビナート推進協議会」を立ち上げ、当社が代表企業を務める。木質ペレット生産や水力発電、洋上風力・水素産業に関する勉強会などを実施している。
 注力しているのが、木材に化学処理を施して得られる「リグノフェノール」の開発で、これはバイオプラスチックの原料として使用される。リグノフェノールはプラスチックに混ぜることで強度や耐熱性が向上し、金属素材の代替として自動車部品などに利用が期待されている。また、同じく木材由来素材の「リグニン」の性質を活かした接着剤や漆のような塗装剤も開発している。
 これらの新素材事業に関する魅力発信として、隠岐高校や中学校の生徒に対して月一回の出張事業も実施している。

株式会社研電社(代表取締役社長 石飛 龍一 様)
 当社は装置メーカーであり、ステンレス製品を得意としている。主力製品である「スリットセーバー」は、排水処理において荒ゴミ取りや懸濁物質除去に特化し、後工程の負荷を軽減するものだ。詰まりにくいスクリーン、網として役割を果たすもので、全自動で荒ゴミや懸濁物質を取り除く。機械的な洗浄機構を備えており、洗浄水の低減も実現する。食品、下水道、家畜糞尿、リサイクルなどの業界で利用されている。
 当然のこととして、装置の生産工程においても環境配慮を実施している。部材へのリサイクル素材の使用にあたっては、素材の規格のために不都合が生じたが、工具や工法の見直しにより克服した。結果としてコスト削減とCO2削減に繋がった。また、消耗品の交換サイクルを部品洗浄により長期化させ、メンテナンスコストの削減も実現している。
 今後の取組としては、脱水機能の強化による産業廃棄物の抑制や、エネルギーの見える化による消費電力の低減、リモート検知による消耗品寿命の最適化などの施策を進めている。新たに、メタン発酵プラントにも挑戦している。

プログラム参加者の自社紹介
島根大学 吉延 匡弘准教授
  • 総合理工学部に所属。化学部門に所属しており専門は木材。物理、化学とも木質系の資源循環、再資源化に取り組んでいる。
アースサポート株式会社
  • 廃棄物リサイクル事業に取り組んでいる。県内の産業廃棄物処理を手掛け、様々な素材のリサイクルに取り組んできた。昨年SBT認定を受け、地方から廃棄物処理を通じて資源循環に貢献していきたい。


株式会社トレンド
  • 紙の印刷やデザインを手掛けている。現状グリーン事業は手掛けていないが、環境にやさしいインクなど、当社の事業のグリーン化に向けた情報収集をしたいと思っている。

株式会社イワタクリエイト
  • 設計・製造を通じて、工場の工程や機械の改善を手掛ける。当社の事業もグリーンに関係するところであり、フォーラムの皆様にもヒントを頂きたい。


柴田様によるまとめ
 島根県の取組には興味関心を持っている。当社の事業とも相乗するのではと思い、今後のコミュニケーションを望みたい。
 サーキュラーエコノミーはどこにでも繋がっているものと考えており、ブレークスルーの鍵はコミュニケーションによりビジネスチャンスの掘り起しであろう。
 今後もフォーラムの場がその推進となることを期待している。

お知らせ&今後のスケジュール

プログラムの開催
 今後のプログラムとして、「エネルギー事業」「環境配慮型製品」セミナーの他、川下企業との商談会に向けた「オンラインプレゼンテーション」を予定しています。詳細は確定次第、本サイト等でご案内します。

グリーンビジネス相談窓口
 (個別相談)の開設
 グリーンビジネスへの事業展開に関するご相談に対し、相談内容によっては、当該分野に詳しい専門家とのメールやオンライン会議など、各種情報提供等を行います。

メールマガジンの配信
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フォーラム会員企業募集

 島根県では、次世代産業分野として成長が期待されるグリーン分野への県内製造業の参入を促進し、新製品・新技術等のイノベーション創出を目指す「島根グリーンビジネスフォーラム」を設立し、今後、戦略構築、研究開発、事業化等の支援を行っていきます。  ポータルサイトにて事業内容をご紹介しておりますので、是非ご入会をご検討ください。

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