「島根グリーンビジネスフォーラム(以下、「フォーラム」と記載)」では、広範にわたるグリーンビジネス全体を俯瞰し、県内製造業の関心の高い領域にフォーカスして、専門的な知見を有する先駆者からの最新情報を提供する「プログラム」を企画しています。
 この度、その第1回として「再資源化・リサイクルで稼ぐための資源循環ビジネスセミナー」を開催いたしました。
 本号では、当日の様子をレポートすると共に、今後のプログラムの開催予定や、本フォーラムのその他の実施メニューにつきましてご案内いたします。

講演動画アーカイブ配信
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当日の様子

 本フォーラムは、次世代の成長が期待されるグリーンビジネスへの、県内企業の参入を促進するプラットフォームとなることを目指している。今後様々な領域で生じてくると見込まれる、グリーンに関する市場への県内企業の参入を通じて、県内に「魅力ある雇用の創出」を実現したい。
 本年7月にはキックオフセミナーを開催し、グリーンビジネスの専門家より最先端の知見をご紹介いただいたところ。講演の様子はポータルサイトでも閲覧可能なので、是非ご視聴いただきたい。
 現在、本フォーラムには県内約50社が参加いただいている。各社の関心ある分野を把握しながら、ニーズに応えられるよう努めていきたい。

将来世代により良い環境を引き継ぐ意識がグリーンビジネスの基盤である
 近年、サーキュラーエコノミーという概念が広く知られるようになってきた。
 私は、経産省官僚を経て公害問題を扱う(一社)産業環境管理協会や、(一社)サステナブル経営推進機構に所属し、製品のライフサイクル全体における環境負荷を測定するLCA(Life Cycle Assessment)事業に取り組んできた。近年(株)LCAエキスパートセンターを設立し、LCA人材の育成も手掛けている所である。
 トヨタ自動車では、ティア1~6までの企業と共に、環境に負担をかけない製品を追求している。EVとガソリン車のどちらがエコか、という論争があるが、LCAの観点から見れば必ずしもEVが環境負荷が小さいとはいえず、製品の生産から廃棄に至るまでのトータルで環境負荷を低減することが目指されている。
 カーボンニュートラルを含むグリーンビジネスの考え方の基盤は、子孫によりより環境を継承することと考えている。プラネタリーバウンダリー(地球の限界)の経年変化を見れば、環境と経済の関係において、不可逆的な事態が進行していることが示されている。将来から逆算したバックキャストの考え方で、現在の事業を見直していくことが大切だ。

サーキュラーエコノミーは欧州の仕掛ける経済戦略だ
 サーキュラーエコノミーは「ゴミ対策」とは異なり、自然から得た資源を無駄なく使い続けるビジネスモデルを意味している。この概念は欧州で発展してきたものだが、その本質は環境保全ではなく、経済戦略であるということを強調したい。
 90年代のインターネット登場以降、世界の変化についていけず、ビジネス資源が乏しくなりつつあった欧州では、アメリカや日本に対抗するための経済戦略を必要としており、そのコンセプトとして地球環境に着目したのである。
 欧州委員会(ヨーロッパを中心に27か国が加盟する政治経済同盟)では「持続可能な経済」(2000年)や「資源効率政策」(2011年)を早くから採用し、これが2015年のSDGsやパリ協定を経て、世界をリードする潮流となっている。
 ドイツでは、GDP上昇と環境負荷の切り離し(デカップリング)を実現している。その鍵となるのは、製品の長寿命化や資源の持続的な利用等、サーキュラーエコノミーを基盤とするイノベーションである。
 2019年の欧州議会では環境政党が躍進し、欧州の社会的・政治的アクションの表れとなった。このような状況は日本では起こっておらず、グリーンに関する関心は政府の呼びかけに依存しているのが現状である。

グローバル市場の攻略にサーキュラーエコノミーが必須となる
 欧州はサーキュラーエコノミーを基盤とし、これまでのアメリカや日本の経済的覇権に対抗している。欧州の政策はサーキュラーエコノミーを中心に据えて体系的な政策構造を整えており、これを世界のルールとして標準化する戦略を展開している。
 一例として、カーボンニュートラルの実現に社会全体で取り組む施策が挙げられる。これには再生プラスチックの使用(新車においては25%以上の使用等)や、EV電池製品におけるCO2排出量の申告の義務化などがあり、欧州市場ではこれらへの対応が充分でなければ、今後取引が制限される。
 欧州市場の影響力は特にアメリカやアフリカに対して強く、環境関連市場を主導することが可能となっている。これに対応するためには資源循環型社会の構築が不可欠であり、我が国の大企業も鋭意取組を進めているところだ。

サーキュラーエコノミーに基づく市場を生み出す努力が必要だ
 再生プラの使用義務化への対応施策としては、木材をカーボンニュートラルファイバーに転換し、鉄やプラスチックに代わる素材を導入する研究が進められている。
 その他、国内でも様々な分野で環境負荷の低い製品や取組が生まれている。
  • トヨタ紡織では、マテリアルリサイクルを重要視し、再生可能資源の供給に積極的に投資している。
  • 業務用油脂製品「長徳®」は長寿命の油で、何度も使用できる。
  • LIXILではアルミの100%リサイクルに取り組んでいる。
  • 愛知県蒲郡市では、消費者へサーキュラーエコノミー製品の使用を呼び掛けている。市民の生活すべての領域において環境を意識し、市のすべての関係者におけるウェルビーイングを目指している。
  • SuMPOでは、再生プラを認証するSPC(Sustainable Plastics Certification)認証に取り組んでいる。SPC認証を得たプラスチックの利用により、製品に競争力が付加されるようになる。
 グリーンビジネスの推進においては、これまでの取引先に留まらず、市場全体を見渡す視点が重要だと言えるだろう。サーキュラーエコノミーの推進においては市場の創造が不可欠で、供給者の論理ではなく、需要者の視点からの商品開発が必要である。
 新たな取組には新たなパートナーシップの構築が必要である。本フォーラムなどを通じた連携強化はその具体策であろう。
 廃棄物やゴミの概念を捨て、資源を循環させるための工夫や知恵の創出を、本フォーラムやご参加の皆様に期待している。

質疑応答
Q.

リサイクル事業に取り組もうとしている製品があるが、どうしてもロスの生じた分新品を購入する必要がある。これに当たり、購入先がリサイクル分の売上が減じるために、事業への協力を拒まれてしまう。打開策は無いか。

A.
  • 購入先のスタンスは今日の時代にそぐわないものと言わざるを得ない。公の場でその問題を取り上げ、社会に問うてみてはどうか。その上で、リサイクル事業の成立に向けて、価格や品質、購入量等の課題に向けて、同業者など協力可能なプレイヤーの発掘・巻き込みをしながら、共に取り組むことで事業を進められたい。

Q.

再生プラのペレットを製造しているグループ会社があり、SPC認証に関心がある。今後の展開を教えて欲しい。

A.
  • SPC認証に関して、政府機関や業界団体の遍く後押しを頂戴している。トヨタ自動車には当初からの応援を頂いている。今後認証制度が順風でスタートできるものと感触を得ており、引き続き情報をチェックいただきたい。

Q.

環境によい取組を実施していることについて、情報発信はどのようにすべきか。また、環境や地域貢献への取組を評価するインパクト投資というものがあるが、これに取り組むにあたってアドバイスが欲しい。

A.
  • 現在、都市部では環境展などの展示会、コンベンションの取組が盛会である。そういった場を利用し、バイヤーに向けて訴えることが効果的だ。首都圏の他、関西でも活気が出てきている。
  • インパクト投資、ESC投資に関しては、投資家とのマッチングや、投資を受けるための情報公開に係る有価証券報告書の記載など、我々のようなコンサルが大いにお手伝いできるところだ。
  • 今後自動車業界がカーボンニュートラルやカーボンフットプリントに本腰を入れると、中小企業は一気に対応を迫られる。個社による対応はハードルが高いかもしれず、本フォーラムのような集団において備えを考えることも有効だろう。

株式会社ミライエ(代表取締役 島田義久様)
 当社は、たい肥化や脱臭の装置メーカーで、全国数百か所に納品実績がある。
 堆肥化装置では、県と共同開発した「イージージェット」という製品を提供している。通常のたい肥化作業では、広いスペースが必要であり、畜糞を積み上げては重機で撹拌する必要があるが、イージージェットは床面に送風機構を備え、この工程を効率的に行う。
 脱臭では、当社独自の生物脱臭法を用い、従来の多量の消耗品を不要にしている。この技術は、多孔質のガラス素材に高密度に微生物を配置し、脱臭効率を向上させるもの。ガラスの寿命は10年以上であり、微生物も初期の設定以降は更新が不要。製紙会社やガス会社、農場の他、牛糞を利用するバイオマス発電所への納品も予定している。
 今後の大きなビジネスチャンスとして、下水汚泥のコンポスト化がある。ウクライナ危機による肥料枯渇などを背景として、国の政策により、これを倍化する方針が立てられたところ。市場規模は2兆円と言われ、当社にとって大変な追い風である。今後、下水処理場の削減やCO2排出権取引市場の拡大に貢献していきたい。

アースサポート株式会社(代表取締役 尾崎俊也様)
 当社は、廃棄物収集運搬から最終処分場の運営まで一貫して行う廃棄物処理事業者である。地域の課題に対応し、不用品改修事業の「片付け堂」や墓じまいの事業等も展開している。現在、直営店とフランチャイズ展開で全国33店舗を運営し、業界トップとなる年間1万件以上の案件を処理している。今後3年で100店舗の開設を目指す。
 2033年には3軒に1軒が空き家になると言われ、解体市場の拡大に対応すべくホールディングス化を進めている。これまで6社の買収を通じて事業領域を拡大しており、プラスチック解体も対応可能。
 SBT認定(「パリ協定」が求める水準に整合した、5〜10年先を目標とする温室効果ガス排出削減目標設定)を受けており、CO2排出削減に向けた取り組みを進めている。scope1においては廃棄プラスチックの焼却処理量の削減や、海洋プラスチックの再利用に係る検討会議を進めている。scope2においては再エネ利用率を高めるため、合銀エナジーによるPPAの導入を決定した。
 再エネ電力調達の課題として太陽光パネルのリサイクルが挙げられ、今後市場が生まれる。99.7%が素材化して再利用できると考えている。松江市の脱炭素先行地域の選定にあたって、当社も共同提案者となっており、パネルのリユースやリサイクルを当社が担う予定である。

山建プラント株式会社(研究開発部 中川様)
 当社では、出雲市内にてアスファルトの生産工場及び、産廃を路盤材に転換するプラントを操業する他、路盤材の販売も行っている。
 循環型リサイクルを指向し、自社で生産したアスファルトの再生に取り組んでいる。
 島根県では製鉄業が盛んだが、製鉄製造の際、元になる鋳物を必要とする。鋳物は使用後は産業廃棄物になるが、従来これを県が回収し、県内施設で処分している。このキャパシティが限界になりつつあり、そのリサイクルが急務となっている。
 当社では鋳物をリサイクルし、アスファルトや路盤材に再利用する研究開発を実施している。鋳物に含まれているホウ素、フッ素、ヒ素、鉛などの有害物を取り除くことがポイントであり、県の補助金を使用し、研究開発に取り組んでいるところである。

壁谷様によるまとめ
 今回の発表企業には驚くようなポテンシャルがあり、大いに評価すべきものだ。
 それだけに情報公開は重要である。往々にして、大企業はティア1以下、従来のサプライチェーンに向けた視野しか持っていない。
 現在使用されているプラスチック等の素材の問題点は、その由来について見える化が進んでいないことだ。環境市場においてはマイナスのインパクトが大きい。今後の各位の事業において、製品のトレーサビリティに是非取り組んでもらいたい。
 今後、環境に配慮された製品の使用が競争力の源泉になる時代がやってくる。これを見越して、自社の環境配慮性に係る情報公開、発信の取組もまた、追求いただきたい。

お知らせ&今後のスケジュール

プログラムの開催
【次回】「脱炭素化の流れをチャンスに変える サステナブル素材・製品ビジネスセミナー」
 海洋プラスチックごみ問題、諸外国の廃棄物輸入規制強化等への対応を契機として、バイオプラスチックや自然素材などの代替素材や、プラスチック等の再生材活用のサーキュラーエコノミー関連ビジネスの商機が広がっています。本セミナーでは、柴田 京平氏(株式会社エンビプロ・ホールディングス 経営企画部長)をお招きし、脱炭素化の流れを踏まえ、サステナブル素材・製品の可能性について事例を交えながら紹介するとともに、県内企業のビジネスチャンスについて解説いただきます。
日時 2023年12月13日(水)14時半〜17時
会場 コワーキングスペースenun(縁雲)※リアル開催のみ
(島根県松江市西茶町40−1 ニューアーバンホテル 3F)
対象 フォーラム会員企業、大学・支援機関 等
参加費 3,000円/社・団体
申込 こちらから (締切:2023年12月6日(水)17時まで)

グリーンビジネス相談窓口
 (個別相談)の開設
 グリーンビジネスへの事業展開に関するご相談に対し、相談内容によっては、当該分野に詳しい専門家とのメールやオンライン会議など、各種情報提供等を行います。

メールマガジンの配信
 「島根グリーンビジネスNEWS」として、グリーンビジネスや本フォーラムに関連するタイムリーなお役立ち情報を、メールマガジンでお届けします。

展示会・イベント情報
取り組もう!リデュース・リユース・リサイクル(経産省関連の3Rイベント)
詳細情報
(外部サイト)
エコプロ2023(2023年12月6日〜8日)
詳細情報
(外部サイト)
第2回 サーキュラー・エコノミー EXPO -CE JAPAN-(2024年2月28日〜3月1日)
詳細情報
(外部サイト)
第4回 脱炭素経営 EXPO【春】(2024年2月28日〜3月01日)
詳細情報
(外部サイト)
第4回 サステナブルファッションEXPO【春】(2024年4月17日 〜4月19日)
詳細情報
(外部サイト)
持続可能なプラントEXPO 2024(2024年7月24日〜26日)
詳細情報
(外部サイト)
第5回 脱炭素経営 EXPO【秋】(2024年10月2日〜10月4日)
詳細情報
(外部サイト)
第1回 サーキュラー・エコノミーEXPO【関西】 -CE JAPAN-(2024年11月20日〜22日)
詳細情報
(外部サイト)
第4回 脱炭素経営 EXPO 【関西】(2024年11月20日〜22日)
詳細情報
(外部サイト)

審議会情報
再生可能エネルギー発電設備の廃棄・リサイクルのあり方に関する検討会(※全6回の動画視聴可能)
詳細情報
(外部サイト)
その他
令和5年度「環境スタートアップ大賞」の募集について
詳細情報
(外部サイト)
令和5年度気候変動アクション環境大臣表彰~受賞者決定と表彰式・受賞者フォーラム開催のお知らせ~(※後日、動画視聴可能)
詳細情報
(外部サイト)
自動車産業「ミカタプロジェクト」(経産省)
詳細情報
(外部サイト)

フォーラム会員企業募集

 島根県では、次世代産業分野として成長が期待されるグリーン分野への県内製造業の参入を促進し、新製品・新技術等のイノベーション創出を目指す「島根グリーンビジネスフォーラム」を設立し、今後、戦略構築、研究開発、事業化等の支援を行っていきます。  ポータルサイトにて事業内容をご紹介しておりますので、是非ご入会をご検討ください。

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