当日の様子
話題提供「水素の導入拡大に向けた取組と今後の方向性」
経済産業省 資源エネルギー庁
省エネルギー・新エネルギー部 水素・アンモニア課 係長
宮坂 洋平 様
水素は可能性に富むエネルギーであり、国は世界への導入を目指して戦略を立てている
今年7月に新設された水素・アンモニア課は国の期待が高く、国会対応等盛んに進めている。私は山梨県からの出向だが、地方の視点からも水素エネルギーは注目すべきものがある。
水素は化石燃料、非化石燃料の両方から生成可能であり、アンモニアや合成メタンなどに変換することで、広い用途が見込め、かつ既存の設備を利用できるなど、環境負荷を軽減できる可能性に富むエネルギーである。
日本は2017年に水素基本戦略を策定し、ヨーロッパなど25か国が後に続いた。2020年には具体的な目標が掲げられたが、それまでは国内での循環を企図していた。2023年の改定においては、ウクライナ戦争等による既存エネルギー供給の世界的な不安定化を受け、それらに代わる安定したエネルギー源としての可能性をも追求する方針が打ち出された。
改定の柱は、水素産業戦略と水素保安戦略であり、我が国が技術面とビジネス面の両方で優位性を確保することを目指している。また、水素の大規模利用に向けて安全かつ経済的な環境整備を進め、国際市場でのプレゼンス獲得も目指す。
新たな導入目標として、2040年までに水素導入目標を1200万トン、2030年までに水電解装置の導入目標を15GWに設定し、サプライチェーン構築や供給インフラ整備の支援制度も整備する予定である。なお事業評価にあたってはブルー水素やグリーン水素といった由来ではなく、低炭素性を軸とすることを策定している。
水素社会のいち早い実現を目指し、世界に先行して多様な実証実験が進んでいる
水素サプライチェーンにおいて、「つくる」「はこぶ」「つかう」の各段階において、日本は先進的な技術と取組を展開している。
「つくる」段階では、水電解装置や電解膜などの技術が注目されている。水電解装置は再エネ導入時に安価な再エネ余剰電力を活用する方法として期待されている。具体的には、福島県や山梨県などで実証実験が進められ、太陽光設備に付随して10MW規模の水電解装置が設置されている。
水電解装置は2030年までに世界で140億GW分が導入される見通しであるが、日本はその10%を占めることを目標としている。
「はこぶ」段階では、液化水素の運搬技術が世界に先駆けている。特に、メチルシクロヘキサン(MCH)を利用した国際輸送実証が成功している。水素の効率的な運搬が可能になっており、国際的な水素市場への参入が見込まれている。
「つかう」段階では、燃料電池車(FCV)や燃料電池トラック・船舶などへの応用が進んでいる。特に、トヨタのミライなどのFCVの開発や、2025年に予定されている水素トラックの運用開始などが注目されている。
将来的には、アンモニア電池などの新たな応用分野も探求されている。製造業においても先進的取組があり、デンソーや大成ユーレックでは、工場内に水電解装置を設置し、化石燃料に代替する実証を行っている。
これらの取組は、日本が水素エネルギーのサプライチェーンを構築し、持続可能なエネルギー社会を実現することに向けて、重要な役割を持つだろう。
更なる進展に向けて、自治体や民間の投資を呼び込む環境づくりを押し進める
現在、国会に提出されている水素社会推進法においては、国、自治体、事業者の責務を定め、認定を受けた事業者への支援制度を創設し、また規制についても定めている。
水素等のサプライチェーン構築支援では、海外からの水素輸入も支援し、評価軸として、エネルギー政策への寄与や事業の継続性を重視している。アメリカやドイツなどでも、このような大規模な導入支援策が実施されている。
拠点整備支援制度では、需要側への支援が重視され、川崎市や碧南市などでのインフラ整備が進んでいる。
地域における社会実装を目指す例としては、神戸・関西圏、中部圏、福島地域などの一定エリア別や、港湾、コンビナートなどの設備別の検討会が開催されている。
自治体主導の取組もある。山梨県では太陽光発電設備から水素製造を行い、域外への販売を実証している。福島県浪江町では、FH2R方式により製造した水素を公共施設や交通で利用する実証、三笠市では豊富な石炭資源を活用するべく、炭鉱から水素を取り出す実証に取り組む。
壱岐市では、島内で完結する仕組みとして、太陽光発電による余剰電力を水素で貯蔵し、夜間に活用する。また、水電解装置により副産した酸素をフグに養殖に利用する実証も実施している。
2023年5月のGX推進法では、水素・アンモニアを含む規制の適正化や、官民合わせた150兆円の投資を目指している。国は様々な分野で先行的な投資を行う傍ら、民間の投資を促進するため、規制・制度の見通しを具体化し、十分な予見性を確保して民間の投資を促進する策を打ち出すことにも注力している。水素の投資戦略においても青写真を示しているので、関心のある方は注視いただきたい。
質疑応答
Q.
山梨県と東京電力のプロジェクトについて、水素の流通方法の詳細を聞きたい。
A.
- トレーラーでの運搬を計画している。パイプラインは地産地消的に使うには有利な選択肢だが、広域に跨る配送策としては、圧縮水素の車両運搬が合理的。圧縮水素は20メガパスカルで運んでいるが、今後技術開発によりさらに圧力を高め、運搬料を増やそうとしている。
Q.
どの程度の範囲で搬送網を敷けば経済合理性があるのか。
A.
- 地勢にもよる。港湾地であれば、船舶で運送した水素をパイプラインで周辺に搬送するのが効率的だ。広範囲になると、需要地で個別に製造するほうが合理的な場合も多いと思われ、様々な状況に関する研究を行っているところだ。
Q.
水素をそのまま使う他、都市ガスに混成するような施策も海外には事例があるが日本ではどうか。
A.
- 既存のインフラを使えるので有力な選択肢として認識している。福島県相馬ガスでは、コミュニティガスではあるが、水素の混焼実証を行っている。課題は燃焼温度が下がることや、インフラ設備の適用可能な混成割合の見極めである。
A.
- JRでは水素活用車両を川崎で実証している。経産省と国交省の間で担当官庁がはっきりしないところがあるが、国として鉄道への適用の方向性も持っている。
Q.
地方から水素を供給する体制について、大企業や需要地である都市部、地方公共団体等がけん引する事例が見られる。島根県では水素の需要家が少なく供給網をどう整備するか課題。山梨県が大企業や需要家とアライアンスを組めたきっかけは何か。
A.
- 山梨県では産業団地を誘致する目的で土地を確保していたが、コロナ等によりその計画がとん挫した。土地の利用に当たり、東京電力との協議によりメガソーラーを誘致したのだが、その過程で山梨県の燃料電池研究者ネットワークとのつながりが生まれ、そのような中から事業が立ち上がった。
Q.
水素ステーションのマルチ化について教えて欲しい。
A.
- Woven cityにおいて、トヨタ、エネオスの連携により水素ステーションを設置するが、水素ステーションで水素を製造する他、パイプラインで近傍に水素を供給する体制を構築しようとしている。
Q.
水素産業は裾野が広いが、中小企業の参入事例があれば教えて欲しい。
A.
- 大手が中心なので、現状事例は少ない。「つくる」「はこぶ」の所は特に大企業が先行している。個人的な感触だが、「はこぶ」の末端、ラストワンマイルを担うところ(個別運搬、パイプライン)などでは、参入しやすいのではないか。
Q.
エネルギーをバッテリーで貯蔵するのと、水素で貯蔵するのと、効率的にはどちらがいいか。
A.
- 一概には言えないが、当然ながら蓄電池の方が効率が良い。ただし、蓄電池と水電解装置で同じ蓄電を行おうとすると、蓄電池の方が大きくなる。また、水素の方が長期保存が可能である。用途に応じて選択されるものであるだろう。
Q.
水電解技術については、イノベーションの起こる余地があるか。
A.
- パテントが押さえられている分野もあるが、効率化にあたっては様々な機関で研究開発が継続している。水電解の手法については新しい技術開発が進められており、2030年度以降実用化が目指されているものが複数ある。