「島根グリーンビジネスフォーラム(以下、「フォーラム」と記載)」では、広範にわたるグリーンビジネス全体を俯瞰し、県内製造業の関心の高い領域にフォーカスして、専門的な知見を有する先駆者からの最新情報を提供する「プログラム」を企画しています。
 本号では、2月21日(水)に実施しました、「環境配慮型製品のマーケティング展開セミナー~消費者の意識や行動の特徴に基づいて~」をレポートします。
 環境・社会問題への意識の高まりを踏まえた企業のマーケティング活動について、これまでは製品・サービスの受益者でしかなかった消費者にもサプライチェーンに参加してもらうという観点から、消費者コミュニケーションの成功に向けた考え方や手法を探ります。

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当日の様子

社会問題や環境問題に関するマーケティングには「エコロジカル」と「コーズ・リレーティッド」の二通りのアプローチがある
 筑波大学ビジネスサイエンス系では、マーケティングや消費者コミュニケーションの研究を行いながら、社会人を対象に講義を実施している。企業人との交流の中で、近年、環境問題が従来のリスクの問題からマーケティングの問題に変化してきたと感じている。
 「サステナブルな社会」とは、地球環境と社会と経済の統合的な向上を目指すものであり、これに対応してSDGsの設定がある。17の目標の中では環境問題が最も上位にあり、他の問題の解決は環境問題の解決に依存するという階層構造がある。
 地球環境問題の抜本的な解決は難しいものの、抑制する方向性で取り組もうとするのが、カーボンニュートラルや生物多様性といった方向性だ。経済学者のフィリップ・コトラーが提唱しているホリスティックマーケティングでは、マーケティングの成功の指標に、利益だけでなく、サステナビリティの観点も考慮する。これを達成するには、マーケティング部門だけではなく、経営や消費者コミュニケーションなど他の部門とも連携した、統合的なアプローチが必要になる。サプライチェーン全体とも統合して、一貫したメッセージを顧客に発信することが求められている。
 企業が地球環境に貢献するためには、顧客のニーズだけでなく、地域の問題や地球環境問題をマーケティングの課題として扱う必要がある。自社のビジネスが社会問題や地球環境問題に関連している場合はその対応に取り組む「エコロジカル・マーケティング」、直接関係のない領域への貢献により消費者コミュニケーションに取り組む場合には「コーズ・リレーティッド・マーケティング」を考慮すべきである。

ものを売るのがゴールでない経済では、消費者にサプライチェーンの一角を担ってもらわなければならない
 近年のビジネス環境では、従来の顧客ニーズのリサーチに加えて、地球環境問題を考慮する必要がある。商品化や販売段階における環境負荷を軽減するための観点の他、家電製品などのように、消費者が使用する中で環境への負荷が発生するものについては、商品の使用方法に関する消費者との適切なコミュニケーションが不可欠である。
 さらに、資源循環の観点からは、使用済みの製品に対するリサイクルや再商品化の取組も重要だ。しかし、これには企業単独では賄いきれないほどの大規模なシステム課題が横たわる。これまでの経済モデルでは、製品が顧客に届くまでがゴールとされていたが、資源回収の視点では、顧客が価値を感じなくなった製品についても、経営リソースを割り当てる必要がある。これは従来の経済思想上ない考え方であり、大きな転換が求められている。
 需要者と供給者の間で資源の循環を整備することは難しい課題だが、既存の思想の中でも、レンタルやリースなどの手法が生まれている。中古車市場は顕著に成功している事例だが、その理由は車検制度が背後にある。消費者が車の耐久消費状況やリセール価格を把握できる環境が整備されていることが根底にある。
 近年のITの進化により、シェアリングエコノミーやサブスク、CtoC取引などが活発化しており、これらも従来の枠組みの中で成功している例である。サーキュラーエコノミーの観点では、資源を捨てることは認められない。製品はゆりかごからゆりかごへと流れるのであり、製品の寿命を高め、高機能かつ省略化するアプローチや、製品ではなく機能を販売するサービタイゼーションなどが、資源を保つ上で有効である。
 これまでの経済モデルでは、価値を生み出すのはメーカーであり、価値を享受するのは消費者だった。しかし、シェアリングエコノミーの発展により、消費者も価値を生み出す参画者となっている。ビジネスを構築するためには、消費者と協力し、地球環境に配慮したアプローチを試みることが求められている。

社会問題や環境問題に取り組むとはいえ、消費者の心理に徹底して寄り添わなければならない
 消費者が地球環境について考える際、ゴミ問題や生物多様性など、多岐にわたるイメージを思い浮かべるだろう。これらの要素は底流で同じ背景を共有するものだが、これら切り取られる分野ごとに、消費者の生活への関与が変わる。例えば、エアコンの省エネ化は消費者にとって電気代の節約という経済的なメリットがあるが、再生プラスチックで製品が製造されていることにはメリットを感じないかもしれない。そのため、環境への貢献度が直感的に理解できない場合は、消費者の取組が得られにくい。
 さらに、ゴミの分別など手間がかかり、意欲を削ぐ場合もある。また、社会全体で取り組むことで初めて環境問題へのメリットが得られる場合もある。このようなケースでは、「自分だけが労力をかけても効果がない」という認識が生まれることも考慮すべきである。
 社会課題への関心度を見ると、気候変動や資源エネルギー問題など高い関心を持たれている。以前は問題解決の主体を国や公とする認識が多かったが、コロナ禍を経て、個人とする認識が高まってきている。具体的な環境配慮行動としては、無駄遣いの是正やゴミの分別とする認識が主流であり、エコプロダクツの利用は低い水準に留まっている。
 エコプロダクツの選択がなぜ進まないのかについて、機能やデザインに問題がある場合は少なく、実際の効果が不明確でわかりにくいことが障害となっているようだ。消費者のエコロジー行動を促進するための要因として、「個人のエコロジー意識」「環境問題への有効性の理解」「品質への高評価」「コスト・労力の低減」「生活の質向上の期待」など細分したうえで、2000年台から統計を取っている。当初は「エコロジー意識」が強かったのだが、最近では「社会規範」が最も強い影響を持つようになっている。この傾向は、東日本大震災以降に顕著となり、社会規範が他の要因の5〜6倍もの影響を持つようになった。
 環境負荷の軽減には大勢が一丸となる必要があるが、「社会規範」は同調行動を生みやすく、この傾向はその点についてプラスである。一方で、「皆がしなければ自分もしない」というジレンマを生み出しやすいことも認識すべきだ。
 商品のエコロジカル効果を消費者に明確に伝えることが重要だ。トヨタプリウスではフロント画面に現在のエネルギー源が表示され、これがガソリンを使わないエコドライブに繋がる、ドライバーの技術向上を促進する。消費者にわかりやすく、参加意欲を喚起し、ハードルを低く設定することが求められる。
 環境効果の視覚化には、島根県のグリーン製品認証制度やエコマーク、ブルーエンジェルなどの海外認証も有効だ。カーボンフットプリントは製品の環境負荷を定量的に捉え、比較が可能だが、ネガティブ情報の開示であるため消費者の関心を引き出しにくい側面もある。このため、排出削減量を示すよう、近年工夫されてきている。消費者がサプライチェーンにどのように組み込まれているかを、理解してもらうマーケティングが必要である。
 オーストラリアのベンチャー、シューズメーカーであるオールバーズは、環境問題を重視し、ライバル会社のアディダスと提携して、環境負荷の低い製品を提供している。この取組は非常に成功し、2万円ほどの価格の商品が即座に完売している。

自社ならではの社会的課題への貢献により、消費者と絆を強めることもできる
 消費者の社会貢献意識の高まりを、企業がマーケティング戦略に応用する動きが見られている。東日本大震災を契機に、企業は社会的な課題(コーズ)への積極的な貢献を通じて、ブランディングや消費者との結びつきを強化しようとしている。
 具体例として、ヴォルヴィックやネピアが商品の一部収益をNPOに寄付したり、女性ユーザーの多い化粧品メーカーがピンクリボン運動に参加している例がある。単なる商品だけでなく社会課題への対応の姿勢をアピールし、顧客との共感を生むことが期待されている。さらに、パナソニックのソーラーランタンプロジェクトでは、非電化地域に対してソーラーランタンを提供することで、社会課題への寄与と同時に、企業の認知向上を図っている。
 コーズの設定は企業の目標やブランドイメージによって異なる。社会的な関心が高いものを選ぶ必要があるが、同時に企業の特徴やブランドと相性の良い課題を見つけ、消費者が共感しやすい内容に落とし込むことも重要だ。また、企業の活動が単なる慈善活動とならないように、自社の特徴を強調し、積極的な取組として位置づけることが求められる。
 一方で、消費者の環境問題への関心が高まっているものの、その関心が実際の行動に結びついていない傾向も見受けられる。同調行動やシェアリングエコノミーを好む層においても、エコ意識が必ずしも高くないことも考慮する必要がある。重要なのは市場浸透を図ることだ。エコロジカル、あるいはコーズ・リレーティッドのプロセスをわかりやすく説明し、消費者がどの部分を担うかを設計することが鍵となる。

質疑応答
Q.

消費者のエコロジカル行動のモデル化について、オールバーズとアディダスの靴を購入した人は、どのような動機で、あるいはサプライチェーンの中でどのような役割を担っているのか。

A.
  • 消費者はこの製品を、価格が高いが選択している。自身のアイデンティティを託しているか、軽いという機能面を評価しているか、なんらかの貢献感、やりがい感を感じているか、サスティナブルファッションに共感する仲間・コミュニティがある可能性も考えられる。
  • やりがい感は重要である。10年以上前だが、100世帯程度の住宅集合地帯に生ごみ処理機をおいてもらう実験をしたことがある。2年半続けたが、途中で放棄した人々と、使い続けた人々がいる。この違いは何か、消費者は何を学習したか。この時の処理機は電気を使わず、微生物を使うものだったが、使い続けた人たちは、時間が経過して実際にゴミが土に変わったのを見て、ペットを飼っているように感じ、子供のいる家庭などが持続にコミットしたようである。あるいは、フリーマーケットで自分の不要になった商品について、他者が価値を見出して売れる、という体験がある種の報酬になることもあるようである。人は合理性とは別に、ある種の価値観が見栄えると、コストパフォーマンスの優先度が下がるようだ。
  • 近年、同調行動を引き出せるか否かが成否を分ける傾向がとみに増している。これはまさにマーケティングや消費者コミュニケーションの課題であると考えている。

Q.

サプライチェーンも取り込んで環境への対応を進めていく中で、SBT認証などの指標もあるが、どこまで見える化し、有効なものにしていけばいいのだろうか?環境問題に貢献する企業の姿勢が、消費者の考えに短絡的には結びつかないため、実際に推進していくことが難しいと感じている。

A.
  • 消費者がエコロジカル行動に自発的に価値を見出すことは確かに難しい。環境問題にかかる見える化を懸命にやっていても、消費者に訴求を高めるかイコールではないのは事実だ。とはいえグローバル展開を目指すならば重要な観点であるし、消費者に訴求せずともESG投資を呼び込めることもある。被投資の実績がブランディングに寄与し、消費者に訴求する道筋もあり得る。直接的に消費者に求めるだけではなく、間接的な効果も総合して視野を定めるべきである。投資を消費者に転化するクラウドファンディングのように、訴求順序を逆にする手法も今日ある。視野を広く持っていただければと思う。

西尾様によるまとめ
 島根県は自然資本に恵まれており、エコロジカルな取組を進めるにあたって、ふさわしいイメージの土地柄であると思う。このようなイメージを活かして、当地で活躍されている皆様に、是非「島根モデル」を導いていただきたい。

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